マンガ『あさきゆめみし』大人の今こそ楽しめる源氏物語

今回紹介するのは、古典が題材のマンガ『あさきゆめみし』です。
扱っているのは古典『源氏物語』です。

源氏物語は古典の教科書で部分的には触れていても、物語全体としては子ども全集で軽く読んだくらいで、ちゃんとした原本を読んだことはありません。
源氏物語のストーリーを一言で言えば「美男子の源氏がいろんな女性と恋愛する話」です。

平安時代は位の高い男性は何人もの女性を妻にするのが常識の時代とはいえ、浮気男の話は読んだ当時はまだ子どもだったのもあって、あんまりピンとこなかった記憶が残っています。面白さがよくわからなかったのです。

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『あさきゆめみし』完全版
大和 和紀著

子どものころは光源氏のプレイボーイぶりが心に響かず楽しめなかった源氏物語ですが、マンガというかたちをとってハードルも下がり、今回は一気に読むことができました。

平安時代というとずいぶん昔のことで、登場人物たちは今の時代とは違った感性を持っている別世界の人のような気がしていましたが、いい意味でそれを裏切ってくれるものでした。

自分が年齢を重ねたこともあって、恋愛小説というよりも
登場人物たち、それも女性陣の心理描写を堪能しました。

そこには、平安時代という時代背景の中、身分や立場にもはっきり区別があり、その上で

  • それに流される者
  • あらがう者
  • 受け容れて自分なりに昇華する者

それぞれに悩みながらもの幸せの形を求めて生きた人たちの姿がありました。

上流階級の一夫多妻は、制度なのだとわかっていてもやはり本心では女性の心を悩ませるもので
特に身分の高い女性ほど、実家や男性からの後ろ盾がなければ思うようには生きられないそんな時代だったのだな。としみじみ感じられます。

光源氏も晩年に苦しむ姿は人間らしくて、少し好感度があがりました。

晩年になって、最愛の紫の上を苦しめるだけの結婚(身分の高い奥さんをもらったので、紫の上が正妻ではなくなってしまいます)をして、紫の上の絶対的愛を失った挙げ句、正妻には浮気をされて子どもまでできてしまい、その子を自分の子として育てる羽目になるなど、自分が父にしたのと同じ立場に立たされて自分の傲慢さや人の苦しみを理解して、後悔したり、嫉妬したり。

人の気持ちって本当にいろんなものが混じり合っているんだな。と感じさせられました。

これを平安時代の女性が書いていたというのは、本当にすごいことだと思います。

 

気になったキーワード~出家~

物語の中に出てくる「出家」というのもひとつのキーワードでした。
俗社会から離れて仏教に帰依するのが「出家」ですが、この物語の中の出家にはふたつのタイプがあるように感じます。

  • 現実がイヤで、とにかくそこから逃げたくてする出家 = ただの逃避
  • 心の自由を求めて、俗社会からの離脱を求めての出家 = 酸いも甘いも噛み分けて、俗社会からの卒業

一夫多妻なのでずっと平穏なままの恋はあまりなく、浮気心や横恋慕はをどうしても摩擦をうみ出すので、光源氏の恋人たちも出家を希望する人が大勢います。

平安時代の上流社会のシステムは、女性には選択権がなく心のままには生きられません。そのうえで心が自由になるには結局、俗社会を捨てる「出家」という選択肢になるのだと思います。

しかし、ただの逃避の出家をした人はその後もすぐに心穏やかになれるわけでもなく、仏教の修行の日々を生きていくことになるし、魂の自由を求めて卒業的な出家をする人は光源氏との恋を後悔することはないけれど、俗社会から卒業するように光源氏から離れて別れていきます。

俗社会からの卒業、という意味で印象的なセリフがありました。
光源氏の孫の代のお話の宇治十帖の中のセリフです。言っているのは多分光源氏(の霊)だと思います。

「人はみなただひとりで生まれ…ただひとりで死んでゆくのだ….
ただ生まれて死んでゆく…それだけのはかない命だからこそ

人は生きとし生けるものを愛し…また愛されてその生をよきものとできるのだ

だからただひとりとして生きなさい
何物からもだれからも自由になりなさい

浮舟よ….
愛になき恋に苦しんだ者こそがそうしてすべてのものからとき放たれて

より広やかなより豊かな愛の中に生きることができるのだから

出展:『あさきゆめみし』 宇治十帖より

このセリフの中に、紫式部のメッセージが集約されている気がします。

「ひとりで生まれて、限りある生命を、喜びや悲しみを謳歌して生き、最後はひとりとして死んでゆく。」

限りあるからこそ、謳歌できるのかな。
「人生を謳歌せよ!」ってことでしょうか。

大和和紀さんの絵がとても綺麗で、読んでいても豊かな気持ちになりました。

ただ、ひとつあえて言うなら、女性陣の描きわけは難しかったのではないかと思います。

女性の髪型も衣装もほとんど同じような感じなので、それも親子とか姪とかが多いので顔立ちも似ています。誰が誰なのか見分けがつきにくいというのがありました。光源氏と関係した女性陣を一同に描いた画があったのですが、誰が誰かは全部はわかりませんでした。

作者の大和和紀さんが、『源氏物語』をじっくり読み込んで作ったマンガは、読み応え十分です。
名作はマンガにしてもやっぱり名作といえるものでした。

大人女性こそ、読んでみて欲しいマンガです。

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